婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

 だからおとなしく帰りを待っていたのだが、戻ってきたエーリヒは、複雑そうな顔をしていた。
「どうしたの? 何かあった?」
 慌てて駆け寄り、怪我をしていないか確かめる。
 昔から優美な外見をしているエーリヒは、ギルドに集まる屈強な冒険者たちの中では浮いた存在だった。
 だから、また何かに巻き込まれてしまったのではないかと心配した。
「いや、大丈夫だ。ギルドも建物が復興していたし、クロエが貴族になったことは知られていたから、絡んでくる者もいなかった」
「そう……。よかった」
 移民の冒険者が貴族の、しかも公爵家の養女になったのだから、知られているのは仕方がない。それでエーリヒが絡まれることがなくなったのなら、良かったとさえ思う。
「だったら、どうして?」
 エーリヒが複雑そうな顔をしている理由が知りたくて、クロエは尋ねる。
「……サージェが王都から逃亡したらしい。しかも魔法を使って、城門を強行突破した」
「えっ」
 予想外の事態に、クロエは声を上げた。
 魔法ギルドの正職員だったサージェは、もともとは移民だった。
 魔導師でもある彼は、以前のクロエのように魔石作りで実績を上げ、移民でありながら国籍を獲得し、ギルドの正職員になったらしい。
 身分制度のはっきりとしたこの国では、移民の立場はあまり良くない。
 だからサージェも、その立場になるまでかなり苦労したのだろう。
 それは、少しの間似たような境遇だったクロエにもわかる。
(でも彼の場合、思い込みが激しくて、さらに自分が国籍を得た途端、他の移民たちを差別するようになったからね……)