以前のクロエは、恐怖から言いなりになっていただけだ。
逃げるという選択肢が、最初から彼女の中にはなかった。支配され、虐げられるのが当たり前だと思っていた。
「あのままだったら、クロエは壊れてしまっていた。だから、逃げ出してくれてよかったと思っている」
「うん」
実質、あの婚約破棄宣言で、クロエは壊れてしまっていたのかもしれない。
もし前世の記憶を思い出し、魔法の力に目覚めていなかったら、クロエにもエーリヒにも未来はなかった。
そう思うと、こうして一緒に居られることが、本当の奇跡だと思う。
「それに、クロエはこうして戻ってきた。そしてまた、戦おうとしている。この国のことはどうでもいいけれど、クロエの傍にいるために、クロエの夢を叶えるために、俺は戦うつもりだ。……本当は」
何かを言いかけて、エーリヒはまた、黙ってしまう。
クロエは急かさずに、静かに待っていた。
今まで自分の気持ちを話すことがなかっただけに、こうして言葉に詰まってしまうのだろう。
「王女殿下……。あの魔女に目を付けられている俺が傍にいると、クロエが危険かもしれない。俺が傍にいない方が、クロエの理想通りの未来に近付けるかも……」
「それは違うよ!」
黙って話を聞かなくてはと思っていたのに、思わずエーリヒの言葉を遮って、クロエは背後から自分を抱きしめるエーリヒを見上げた。
「私がアリーシャさんに協力しているのも、この国の有り様を変えたいと思ったのも、心置きなくエーリヒと幸せになりたいからだよ」
一番大切なのは、掲げた理想でも平穏な生活でもなく、エーリヒだ。
逃げるという選択肢が、最初から彼女の中にはなかった。支配され、虐げられるのが当たり前だと思っていた。
「あのままだったら、クロエは壊れてしまっていた。だから、逃げ出してくれてよかったと思っている」
「うん」
実質、あの婚約破棄宣言で、クロエは壊れてしまっていたのかもしれない。
もし前世の記憶を思い出し、魔法の力に目覚めていなかったら、クロエにもエーリヒにも未来はなかった。
そう思うと、こうして一緒に居られることが、本当の奇跡だと思う。
「それに、クロエはこうして戻ってきた。そしてまた、戦おうとしている。この国のことはどうでもいいけれど、クロエの傍にいるために、クロエの夢を叶えるために、俺は戦うつもりだ。……本当は」
何かを言いかけて、エーリヒはまた、黙ってしまう。
クロエは急かさずに、静かに待っていた。
今まで自分の気持ちを話すことがなかっただけに、こうして言葉に詰まってしまうのだろう。
「王女殿下……。あの魔女に目を付けられている俺が傍にいると、クロエが危険かもしれない。俺が傍にいない方が、クロエの理想通りの未来に近付けるかも……」
「それは違うよ!」
黙って話を聞かなくてはと思っていたのに、思わずエーリヒの言葉を遮って、クロエは背後から自分を抱きしめるエーリヒを見上げた。
「私がアリーシャさんに協力しているのも、この国の有り様を変えたいと思ったのも、心置きなくエーリヒと幸せになりたいからだよ」
一番大切なのは、掲げた理想でも平穏な生活でもなく、エーリヒだ。


