婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

 その言葉に、深く頷いて同意する。
 たとえ相手がこの国唯一の魔女のカサンドラであろうと、エーリヒを守るためなら戦う。
 ふたりで生きる未来のためなら、何だってする。
 その覚悟は、アリーシャにも負けないだろう。
 そう思った途端、エーリヒが彼女の名を口にする。
「きっと、アリーシャ嬢もそうだ」
 そう言って、クロエを宥めるように、そっと背中に手を添えた。
「俺たちを保護しようとしてくれている気持ちは、本物かもしれない。でも掲げた理想や、留学して魔術を学んでまで守ると決めた婚約者のためなら、きっと何でもするだろう」
 クロエとエーリヒが、互いのためならどんなことでもすると決めているように。
 どちらかしか選べない状況になれば、アリーシャは迷いなく、婚約者のジェスタと、彼とともに掲げた理想を守ろうとする。
 それは、クロエにもわかった。
 アリーシャにとって一番大切なのは、クロエたちではない。
「うん、そうね。エーリヒの言う通りかもしれない」
 アリーシャの誠意を疑っているわけではないが、あまり信じすぎても良くない。互いに大切なものを守るために協力関係にあるだけだと、思い直す。
「エーリヒ?」
 抱きしめられている腕に力が込められたことに気が付いて、クロエはエーリヒを見上げた。
「どうしたの?」
「……いや、何でもない」
 そう言葉を濁しながらも、クロエを離そうとしない。
 マードレット公爵家に来てから、こんなことが増えたような気がする。
 王都の小さな家で暮らしていたときは、もっと互いに色んな話をしていた。クロエの前世の話や、町であったことなど、楽しそうに聞いてくれた。