婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

「何だか、その髪色だとお嬢様と呼びたくなるな」
「えっ?」
 たしかに騎士見習いだったエーリヒは、クロエをお嬢様と呼んでいた。でも今さらそう呼ばれると、少し寂しくなる。
「じゃあ、元に戻すね」
 そう言って、黒髪にした。
 するとエーリヒは、ようやく笑みを浮かべてクロエを抱きしめた。
「うん。これなら、俺のクロエだ」
「エーリヒは、前の色の方が好きだと思っていた」
 率直に気持ちを打ち明けると、エーリヒはクロエを抱きしめたまま、首を振る。
「もちろん、以前のクロエも愛している。最初に恋をしたのは、傷だらけの俺の手当をしてくれた、あのクロエだ。でも、このクロエは俺のものだと思っている」
 互いにまだ、子どもの頃に出会った。
 その長い年月を考えると、黒髪のクロエとして過ごした時間は、ほんの僅かだ。
 でもその期間に、たくさんのことがあった。
 エーリヒに恋をしていたことに気付き、そしてエーリヒも自分を愛してくれていたことに気が付いた。
 ふたりの将来のために、これからもずっと一緒に過ごせるように頑張ってきた。
 その年月を愛おしんでくれているからこそ、黒髪のクロエの方が好きだと言ってくれるのだろう。
「私は全部、エーリヒのものだよ」
 そう言って、クロエからも手を伸ばしてエーリヒの背中に手を回した。
 今のクロエは、前世の知識に助けられている部分も多い。
 でも前世のクロエは、人を愛する気持ちを知らなかった。
 大切な人と歩む人生は、こんなにもすべてが愛しくて、輝いて見えるのだと初めて知った。

「それで、海の魔物は、無事に退治できたの?」