婚約破棄されたので、好きにすることにした。王城編

 エーリヒが貴族を嫌っていることは知っていても、アリーシャもそう言わざるを得ないようだ。
 彼を引き渡すように言ってきたのは、マードレット公爵と同じ公爵家であるアウラー公爵と、王女のカサンドラである。貴族の中でも権力を持つ相手だということを考えると、それも仕方がないのかもしれない。
「必要ない。自分のことは、自分で何とかする」
 そんなアリーシャの言葉を遮るように、エーリヒは素っ気なくそう言った。
 いくらクロエの義姉になった相手でも、女性である以上、そんな態度になってしまうのだろう。
「どうやって?」
 間に入るようにクロエがそう問いかけると、途端にエーリヒの表情が柔らかくなる。
「今まで通り、冒険者としての活動を続ける。そして、貴族の令嬢を娶っても周囲が納得するくらい、名を上げてみせる」
 たしかに高名な冒険者は、たとえ平民であっても重宝される。
 この貴族が優位の国では、唯一、貴族と同じくらいの発言力を得る手段である。
 けれどその栄誉を手にできるのは、数多くの冒険者の中でもほんの一握りだ。
 かなり厳しい道のりである。
 それでもエーリヒは、自分の力で自由を手にしたいのだろう。
「それなら、マードレット公爵家があなたの後見人になるわ。そうすれば、王都の外の依頼も受けられるようになるでしょう」
 話を聞いたアリーシャが、そう提案してくれた。
(そういえばギルドの説明で、後見人の制度の話を聞いた気がする……)
 移民や外国人でも、貴族が後見人になれば、仮の身分証明書が発行され、王都の出入りが可能になる。
 主に貴族が、優秀な冒険者を囲い込むときに使っていたそうだ。