1月の夜空は、12月の夜空よりもいっそう紺色の深みを増している。
より真冬へと、時が流れているのだ。
窓を開け放したまま、そこに肘をついて身を乗り出し、ただただ、かがやく月を見上げていた。
輪郭がさめざめとくっきりしていて目を焼くようなかがやかしさ。それを見ていれば、別れたいとおしいひとも、過去の自分の恥ずかしい行動も、全部忘れられるような気がして。
煙管を吸う気分にもなれなかった。火を灯すのも億劫だった。
手持ち無沙汰でいる右腕を支えに、てのひらで頬を受け止め、傾けて見た空はそれでも歪んではいない。ただ透き通る闇と、白い星、丸い月だけが、鎌倉の山々を黒く染めながら、凍てつく冬にそれでも凛として佇んでいる。
突然、何かが下からやって来る気配がして、はっと頬から手を離す。
二階にある雫原の寝室の窓は、銀杏の木に面しており、今は枯れて金色だった葉は落ちている。
夜闇を飛んでいた烏が、家の壁にぶつかったのだろうか。
見下ろせば、かさかさと何かがよじ登ってくる。黒く大きな影だけが蠢いて近づいてきていた。
「たぬきか……?」
こんなときですら、何故か恐怖は感じなかった。どこかで見慣れたものだと本能で感じ取ったのだ。
影はすぐそこまで迫り、あと一歩動きを見せれば、窓から出た雫原の袖とふれあいそうになっていた。
雫原はやっと身の危険を察知し、さっと窓から身を離した。
その一瞬後に、木から何かがこちらへ飛び移った。
窓枠から一本、男の脚が出ている。
「は?」
「よっ! 雫原!」
月明かりを逆光にして現れたのは雫原だった。
足を支点にして力を入れ、腕で窓枠を引っ張り、上体をぐいっ、と寄せ、顔を出した。
あまりにも突然の訪問、それも前代未聞の窓からだったので、雫原はしばらく開いたくちが塞がらなかった。
だが、この男ならやりうる。そう思えば、心落ち着いてきた。
より真冬へと、時が流れているのだ。
窓を開け放したまま、そこに肘をついて身を乗り出し、ただただ、かがやく月を見上げていた。
輪郭がさめざめとくっきりしていて目を焼くようなかがやかしさ。それを見ていれば、別れたいとおしいひとも、過去の自分の恥ずかしい行動も、全部忘れられるような気がして。
煙管を吸う気分にもなれなかった。火を灯すのも億劫だった。
手持ち無沙汰でいる右腕を支えに、てのひらで頬を受け止め、傾けて見た空はそれでも歪んではいない。ただ透き通る闇と、白い星、丸い月だけが、鎌倉の山々を黒く染めながら、凍てつく冬にそれでも凛として佇んでいる。
突然、何かが下からやって来る気配がして、はっと頬から手を離す。
二階にある雫原の寝室の窓は、銀杏の木に面しており、今は枯れて金色だった葉は落ちている。
夜闇を飛んでいた烏が、家の壁にぶつかったのだろうか。
見下ろせば、かさかさと何かがよじ登ってくる。黒く大きな影だけが蠢いて近づいてきていた。
「たぬきか……?」
こんなときですら、何故か恐怖は感じなかった。どこかで見慣れたものだと本能で感じ取ったのだ。
影はすぐそこまで迫り、あと一歩動きを見せれば、窓から出た雫原の袖とふれあいそうになっていた。
雫原はやっと身の危険を察知し、さっと窓から身を離した。
その一瞬後に、木から何かがこちらへ飛び移った。
窓枠から一本、男の脚が出ている。
「は?」
「よっ! 雫原!」
月明かりを逆光にして現れたのは雫原だった。
足を支点にして力を入れ、腕で窓枠を引っ張り、上体をぐいっ、と寄せ、顔を出した。
あまりにも突然の訪問、それも前代未聞の窓からだったので、雫原はしばらく開いたくちが塞がらなかった。
だが、この男ならやりうる。そう思えば、心落ち着いてきた。



