嘘と欲求

 きっかけを作ってしまったのは、紛れもなく翔真であった。翔真が盗撮画像を投稿さえしなければ、伊織の中学の同級生に見つかることも、仄暗い欲求について暴露されることもなかったはずなのだ。誹謗中傷される必要だってなかったはずなのだ。

 ひたすらいいねが欲しくて、そのために、顔の良い伊織を親友にして利用した。誰に頼まれたわけではない。自らが考え自らが始めた物語だった。

 明るい結末が思い描けない。どのように動けば挽回できるのか、軌道修正できるのか、数日前のバズの状態に戻せるのか、何も浮かばない。目の前が真っ暗で、何も見えない。呆然と立ち止まるしかない。

 どこにも進めない物語を強制終了させるには、暗闇の向こう側でこちらを罵倒している人間の言う通りに、死んだ方がいいのかもしれない。全員が、死ぬことを望んでいるのかもしれない。

 本当の親友などいない。味方は一人もいない。誰もいない。誰も助けてはくれない。一人で解決するしかない。一人で火を消すしかない。望み通りに死ぬしかない。死ねば終わる。全て終わる。何も持っていない自分を消せる。伊織を利用して嘘を吐き続けた自分を消せる。

 心が折れるのは簡単だった。思考が極端な方向へ導かれていくのも簡単だった。死ね。盗撮魔。死ね。ブサイク。死ね。ストーカー。死ね。死ね。死ね。一つ一つの言葉が凶器となって、翔真の心臓をグサグサと射抜いていく。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。幻聴が聞こえる。死ね。幻聴に傷つけられる。死ね。両耳を押さえても、声は脳に直接響く。死ね。死ね。死ね。犯罪者は死ね。死ね。死ね。死ね。

 心のどこかで、決して弱くはないと思っていた自身のメンタルが、本当は豆腐のように脆く壊れやすかったのを知った。メンタルの弱さに劣等感を抱き、それがまた翔真を苦しめた。

 無視してしまえばいいのに、できない。軽く受け流してしまえばいいのに、できない。やり過ごせない自分が、情けない。SNSに囚われ、いつでもどこでもどんな心境でも見ずにはいられない自分が、情けない。