そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~




「飲む?」


考えるより先に、言葉が口から出ていた。

同時にコップを差し出してしまって。


言ってから、はっとする。


……これ、私が口つけたやつじゃん!


「…まって、やっぱなんでもな──」


誤魔化そうとした言葉は途中で途切れた。

蓮が何の躊躇もなく、私の手からコップを取ったから。


そしてそのまま。

私が口をつけたのと同じ場所に、迷いなく口をつける。

ごく、と喉が鳴る音。


「……甘」


ほんの数秒なのに、やけに長く感じた。

蓮はコップをテーブルに戻すと、視線を伏せたままぼそっと一言。

そして、何事もなかったかのようにコップを返してきた。


え、い、今の、完全に間接キスじゃん………


顔が一気に熱くなるのを自覚して、慌てて視線を逸らす。


…で、なんで蓮はそんな何事もないような顔してるの?!

あんまり気にしないタイプなのかな。私が意識しすぎ…?


私はコップを両手で持ったまま、身動きが取れなくなる。

隣を見ると、律は律でさっきより明らかに機嫌が悪そうな顔をしているし。

さっきまで美味しかったはずの甘いいちごミルクが、喉に詰まりそうだった。


「あー…私、ちょっとお手洗い行ってくる!」


これ以上あの席にいたら、落ち着かないどころじゃない。

…私がいない間に席替えでもしてくれ。

そんなことを心の中で叫びながら、私はそそくさと個室を抜け出した。