「何かあったのか…?」
そう言って、蓮の手が伸びてくる。
指先が私の頬に触れて。
逃げ場を塞ぐみたいに、そっと顔を正面に向かせられた。
…胸の奥が、ざわざわして落ち着かない。
言いたいことはたくさんある。
でも一番は、その全部の原因は多分、目の前のこの人。
「別に、何もないよ」
そう言って、視線を逸らした。
精一杯平然を装ったつもりだった。
でも、蓮の手がわずかに止まる。
「……ほんとに?」
疑うような声。
さらに一歩、近づいてくる気配。
——そのとき。
「若〜!」
馴染みのない呼び方が、唐突に空気を裂いた。
学校で呼ばれることなんて、まずない声。
この一言で、今まで張りつめていた空気が少し緩む。
視線を上げると、いつの間にかテントの周りに数人の大人たちが立っていた。
ラフなパーカーやキャップ姿。
それでも隠しきれない圧と、独特の距離感。
──神楽組の人たちだ。

