さっきまでそこにあったはずの気配は、人混みに溶けるみたいに消えていて。
最初から存在していなかったかのように、何の痕跡も残っていない。
……気のせい?
そう思おうとした、そのとき。
「彩葉っ…!」
蓮の声がすぐ近くで聞こえた。
視界の端に影が落ちて、蓮がしゃがみ込む。
私の肩と背中に迷いのない手が回された。
「ごめん、俺が不注意だったせいだ」
眉を強く寄せて、唇を噛みしめるようにしてぽつりと言った。
…違う、今のは蓮のせいじゃない。
明らかに…誰かが意図的に転ばせようとしていた。
そう言いかけて、言葉を飲み込む。
もしここでそれを口にしたら、
せっかくの体育祭なのに、蓮はきっと、またずっと気を張ることになる…。
それに…庇ったのは私の判断だ。
私が、そうしたくてしたこと。
というか、蓮を守るのが私の仕事だし。
「…立てるか?」
蓮が私に手を伸ばし、その手を取って立ちあがろうとしたその時──
「……っ!」
ズキッ、と。
鋭い痛みが、足首を走った。
思わずバランスを崩して、身体がふらりと傾く。
でも、蓮の腕が即座に私を引き寄せて抱き止めてくれる。

