そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~







その日の夜。
もう屋敷中が寝静まっている時間の事だった。

私は部屋で荷物の整理をしていると、部屋の外から微かな物音と気配がした。


……足音?
引きずらず、地面を擦らず、音を殺す歩き方。


私の向かいの部屋は蓮さんの部屋。

胸騒ぎがしてそっと扉を開けて廊下を見渡せば、黒いフードを深くかぶった蓮さんの後ろ姿が見えた。


しかも、
“誰にも見つかりたくない”って動き方。


護衛として放っておけるはずがないので、私は急いで上着を手に取り、音を殺しながら後を追った。


少なくとも蓮さんはまだ私を信用していない。
だから、ついて行くしか方法はないだろう。

声をかけても、きっと“来るな”と言われて終わるし……


開け放たれた裏門から、蓮さんは庭の奥へ抜けていく。
私も足音を殺し、夜風の冷たさに身を縮めながら走った。


こんな時間に何しに行くんだろう…?


私は一定の距離を保ち、その後を慎重に追っていたけど、

路地裏を曲がった瞬間…


「──あれ?」


蓮さんの姿が、そこから消えた。


周囲は人気のない倉庫街。
風が鉄骨を震わせる音だけが響いている。


「まずい、見失った……でも、確かにこの方向に…」


何度か倉庫の隙間や薄暗い道を覗き込むが、姿はない。

胸騒ぎがする焦りの中、耳の奥に鋭い金属音が飛び込んできた。


──ガンッ!!


反射で音の方向へ身体が動く。

何の音…!?


心臓が跳ね、足は自然と全力疾走していた。
音の方へ向かうと、倉庫の隙間から見覚えのある後ろ姿が目に入った。