持ち前の身体能力で、一人、また一人と追い越していくと、気づけば一位。
視界の先に、蓮がいる。
目が合ったその瞬間。
胸の奥がきゅっと揺れて、一瞬、足がもつれそうになる。
……だめ。
私はバトンを強く握り直して、最後の直線を駆け抜けた。
伸ばされた手に私も腕を伸ばして
バトンを渡す一瞬、指が触れた。
ほんの一瞬なのに、皮膚越しに伝わる体温が、やけに鮮明で。
「——ナイス」
すれ違いざま、蓮が、にこっと笑ってそう言った。
………急にそんな笑顔、反則だよ…。
バトンを渡し終えた直後、私はその場に立ち止まって乱れた呼吸を整える。
視線をグラウンドから外した、そのときだった。
「ねえ、やっぱかっこよすぎるよ〜〜」
少し離れたところから、女子の声が耳に入ってくる。
「あのアンカーの人でしょ? 蓮様」
聞き耳を立てるつもりはないのに、耳は勝手に声を拾ってしまう。
「蓮様って彼女いないよね?!」
「そもそも女の子と個人的に関わってるとこ、見たことないよ!」
…………彼女。
なぜだか胸の奥が、きゅっと音を立てた気がした。
「でもさ、ヤクザの息子って噂あるよ?」
「それ有名だよね〜…」
「これがただの噂なんだったら、めちゃくちゃ優良物件すぎるのに…」
……やっぱり。
みんな、そこを見てるんだ。
蓮が…“そういう家”の出だってこと。
…まあ、そうだよね。
そんな相手を好きになって、何の覚悟もなく幸せになれる可能性なんて、きっと低い。
そう思った瞬間、それが誰に向けた言葉なのか自分でもわからなくなって、胸の奥に刺さった。

