「次の競技、借り物競走リレー!
出場者はグラウンド中央に集合してください!」
人が減ってようやく一息つけたところで、スピーカーからアナウンスが響いた。
借り物競走リレー。
最初は普通のリレーだけど、アンカーだけ借り物競走のお題を引いて条件を達成した状態でゴールしなければいけないというルール。
「あ、彩葉出番じゃん。ファイト〜」
律がいつもみたいに軽い調子で言いながら、ぽん、と私の頭を撫でた。
…頭撫でてくるの、癖なのか何なのかわからないけど、
毎回ほんの一瞬、心臓が跳ねるからできればやめてほしい…。
……なんてことは言えないので、私は切り替えてグラウンドへ向かった。
「行ってくるね」
競技エリアに近づくと、見慣れた背中がアンカーの位置に立っていた。
ジャージ姿の蓮が、腕を組んだまま静かにコースを見つめている。
周囲には人がたくさんいるはずなのに、そこだけ妙に空気が違うみたいに見えた。
他クラスの女子たちからも蓮に向けた黄色い歓声が上がっている。
昨日のことを思い出さないようになんとなく視線を逸らし、私も自分の待機位置に立った。
とはいえ、私はアンカーの前の走者だから蓮のところに向かって走らないといけない…。
スタートの合図が鳴ると、わっとグラウンド中に歓声が湧き上がった。
自分の番が近づくにつれて、心臓の音がやけに大きく聞こえてきた。
うちのクラスは、暫定三位。
……でも、まだいける。
前の走者差し出されたバトンをしっかり受け取って、迷いなく地面を蹴った。
「えっ、速っ…!?!」
「桜庭ーー!がんばれー!」
耳に飛び込んでくる驚いた声。
柄にもなくちょっと本気を出している自分に、走りながら少しだけ苦笑する。
今まで、普通の学校生活を送ってこなかった。
体育祭だって、これが初めてで。
だからこそ、この一瞬ぐらい全部を忘れて走りたかった。

