そのキス、契約違反です。




「俺、プライベートに干渉されるの嫌いだから、必要最低限しか関わらないでね」



笑みを浮かべたけど、それは薄くて、張り付いたみたいで。

……この違和感。ずっと思ってた。



「最低限と言われても、常時護衛ですし無理ですよ。……それに、俺に気を使うのもやめて下さい」



そう言うと…蓮さんの目が一瞬だけ揺れた。

ほんの、ほんの一瞬。


でもすぐに、平然とした顔に戻る。



「……何の話?」

「蓮さん、さっきから無理に表情作ってますよね」



私の仕事柄、人の表情を読むのは得意だ。

気づかないほうが難しい。



「……初対面のくせに踏み込みすぎじゃない?」

「守る相手の素性を把握するのも、仕事です」



蓮さんが一歩近づいてくる。


私も反射的に下がろうとしたその瞬間──

ネクタイを掴まれた。


ぐい、と。

呼吸が触れそうな距離に引き寄せられる。



「……調子乗ってんじゃねぇよ」



耳元で低く落とされる声に、背筋がひやりとした。

その瞳には、さっきの柔らかさが一欠片もない。


「……!」


自分で煽ったくせに、私は思わず息を呑んだ。

多分……これが蓮さんの本性なんだろう。


蓮さんはふっと笑い、ネクタイから手を離した。



「ビビってんじゃねぇか。……ま、でもお前がそう言うなら気使うのやめるわ」



解放されたはずなのに妙な緊張だけが残る。

私は乱れたネクタイを整え、蓮さんを見上げた。



「言っとくけど俺は護衛なんていらねぇし、お前のこともまだ認めてねーから」



蓮さんは吐き捨てるように言い放ち、自室に戻り扉を閉めてしまった。


静まり返った廊下に、ひとり取り残される。


……梓さん。

ごめんなさい。


私、この人と友達になるとか絶対無理ですよ。