そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~




静寂の中で、蓮さんがふいに口を開いた。


「……君さ、何でこの仕事受けたの?目的は?」


…なんか疑われてる?
私が何か企んでるとでも思っているのか。


「生活のためです。一度断ろうとしたら、創さんが報酬を倍にしたので」


蓮さんの目がわずかに細まる。


「だから、蓮さんが俺を嫌ってても、護衛はします。報酬をいただいてますので」


短い沈黙ののち、蓮さんは息を吐いた。


「……はぁ。来て。案内する」


渋々という態度で歩き出した蓮さんの後ろを追う。

ぶっきらぼうに言うわりには、ちゃんと歩幅を合わせてくれていた。


屋敷の中は、とにかく広かった。玄関から続く大理石の廊下は左右に伸び、廊下の先にはいくつもの扉。
少し進むと吹き抜けのホールに出て、天井の大きなシャンデリアが煌めいている。
廊下を曲がるたびに部屋が現れ、応接室、書斎、蔵書室、客間──まるでホテルか何かみたいだ。

蓮さんは最低限の説明だけして、淡々と歩き続けた。



「ここが二階。で──」


止まったのは、向かい合わせの二つの扉の前。


「……待って。まさかここ?」


蓮さんはため息を吐き、眉間を押さえた。


「ここが君の部屋。…で、隣が俺の」

「……近いですね」


漏れた本音に、蓮さんは肩越しにぼそり。


「……最悪」

「蓮さん?」


振り返った蓮さんの目には、不満が宿っていた。