「彩葉に刃向けた時点で、逃げ道なんてないよ」
律……!?
…いつの間に。
静かな声なのに、凍るような怒気が滲んでいる。
律は男の首筋を軽く叩き、あっさりと気絶させて地面へ沈めた。
倒れた男を片手で押さえたまま、もう片方の手で小型端末を取り出す。
「凶器所持の不審者一名。拘束済み。回収頼む。──以上」
淡々とそれだけ告げて通話を切ると何事もなかったかのように端末をしまい、男から手を離した。
すぐに仲間が来て男は連れて行かれ、律は手についた砂埃を払うようにして立ち上がる。
じっと見ていると、目が合った瞬間律の目がふっと和らいだ。
そして、さっきまでの殺気が嘘みたいに優しい笑みでこちらへ小走りで寄ってくる。
「……彩葉。怪我してない?」
聞き慣れた律の優しい声を聞いた瞬間、胸の奥に張りついていた緊張がじんわりほどけていくような気がした。
「うん、平気。……ありがとう」
そう言うと、律は安堵したようにほっとした顔でうなずいた。
「それと……蓮くん」
そしてその直後、穏やかな笑顔でゆっくり視線を蓮へと向けた。
「助かったよ。君の蹴り、悪くなかった」
……誉めてるようで、どこか上からな言い方。
蓮もそれを感じ取ったのか、むっとして返した。
「なんでお前に礼言われなきゃなんねぇんだよ」
…あ、“蓮様”モードじゃなくなってる。
さっきまで律の前でも顔作ってたのに。

