「怒るって何に?」
「私のせいで、あんな怪我……」
あの時の律の怪我は相当深刻で、生死を彷徨ってもおかしくないほどの出血量だった。
思い出したくないのに、今でも鮮明に覚えている。
「なんだ、そんなこと」
律はふっと笑って、小さくつぶやいた。
その目は、昔から知っている人にだけ向ける、優しさに満ちていた。
「“そんなこと”じゃないよ!」
「俺が勝手に庇っただけだから、彩葉は何も悪くないよ。それに、彩葉が無事なら俺はそれでいい」
…またそう言うこと言う。
私のために誰かが傷つくなんて嫌だよ。
「私は良くな──」
言いかけた瞬間、律が私の言葉をそっとかき消すように続けた。
「ねぇ、彩葉」
真剣な眼差しが、私を貫いてくる。
「本当は俺の気持ち、伝えるつもりなかったけど…ライバルがいるなら話は別だよ」
「…え?」
「…前に“そういう相手”作る気ないって言ってたでしょ。だから、俺の想いを言葉にしたら困らせちゃうよなって思ってた」
「……っ」
「……でも」
律はそっと、私の目にかかる前髪を指で払い、柔らかく微笑む。

