「“さん”は付けなくていいです」
そう言うと、蓮さんはゆっくりと私の体を視線でなぞった。
体格、肩幅、腕…まるで値踏みするみたいに。
「……ひとつ聞きたいんだけど。そんな細身で、本当に俺の護衛なんて務まるの?俺だって君みたいなのに守られるほどヤワじゃないんだよね」
「……手合わせしてみますか?」
普通なら護衛対象と手合わせなんて論外。
でも言い出したのは向こうだし、強さを見せれば多少は黙らせられるかもしれない。
私の返答に、蓮さんは笑みを残したまま一歩近づいてくる。
「へぇ……言うじゃん」
至近距離で覗き込まれて、思わず睨み返した。
「……何ですか」
「……君、本当に男?」
心臓が跳ねた。
…この人、鋭い。
たった今会ったばかりなのに、核心を突かれたような気持ちになる。
いや、落ち着け。ここで動揺したら終わる…!
「ふざけてるんですか。俺は男です」
内心冷や汗が止まらない中、動揺を悟られないよう必死で声を整えたその時。
そこへ、梓さんの明るい声が割り込んだ。
「二人とも、“喧嘩”は禁止だからね!仲良くしなさい!」
蓮さんは露骨に舌打ちした。
……あぶな。私としたことが、完全にペースを乱されてた。
「蓮、彼に屋敷の中を案内してやれ」
「は? なんで俺が?」
蓮さんは嫌そうな声を上げたが、創さんも梓さんも「あとはよろしく」と言い残し、さっさと部屋を出ていってしまった。
残されたのは、私と蓮さんだけ。
……気まずい。

