「あいつに触られてんの見たら、……なんかムカついた。意味わかんねぇくらい」
蓮が小さく吐き捨てる。
な…なにそれ。
そんなのまるで…………。
つい喉から出かかった言葉を、飲み込んだ。
そして、頬に手が添えられる。
親指が頬骨の下をゆっくり撫でて、体温が一気に上がった。
後ろは壁なのに、反射でまた体が後ろに下がろうとしてしまう。
「逃げんなよ」
蓮は私の動揺を全部見透かしたみたいに、視線を逸らさない。
「も、良い加減離れて!……心臓もたない……から…」
言った瞬間、蓮の表情が一瞬だけ固まった。
驚きとも、照れともつかない微妙な沈黙が落ちる。
「……は」
小さく呟いて、目が泳いでいた。
蓮が動揺してる。
珍しすぎて、逆にこっちが固まる。
けれどすぐにいつもの表情に戻り、パッと手が離される。
「今の顔」
「…え?」
「…他のやつには見せんな。特にアイツには」
……え、私どんな顔してたの。
鏡なんてないけど、顔が熱いのだけは分かる。
そのとき。
── キーンコーンカーンコーン。
静かな教室の中、チャイムの音が鳴り響いた。
「…授業始まるから、戻るぞ」
そう言って蓮はドアの鍵を開ける。
振り返った蓮の口元は緩んでいて、さっきまで不機嫌だったのに今はやけに上機嫌で。
その事実に気づいてしまった。

