【side蓮】
ホールが静まり返った。
耳に届くのは、自分の心臓が刻む音だけ。
落ち着け、と何度も言い聞かせてきたはずなのに鼓動は正直で、少し乱れている。
重厚な扉がゆっくりと開いて、差し込む光の中に彩葉がいた。
白いドレスに包まれて、少し緊張した顔でそれでもまっすぐ前を見て立っている。
その姿を視界に捉えた途端、胸の奥がぐっと締めつけられた。
彩葉が、一歩、また一歩と歩いてくる。
俺はもう、神楽組の若頭でもない。
守るために誰かを殴る必要も、銃を持つ必要もない。
バージンロードを進むたびに、過去が剥がれ落ちていく気がした。
あの頃の記憶は全部、ここに置いていく。
視線の端には懐かしい顔が見える。
神楽組の連中だ。
普段なら威圧感しかない厳つい面構えなのに、今日は妙に落ち着かない顔をしている。
誇らしさと寂しさが入り混じったような、珍しい表情。
視線が合った瞬間、彩葉がほんの少し笑った。
それだけで、報われたと思ってしまった。
彩葉を笑顔にすることができて、あの時全てを捨てるほどの覚悟をして良かったと思える。
俺の隣に来て彩葉が立ち止まった。
……ほんとに、綺麗だ。
何度も見てきたはずの顔なのに、何度も抱きしめて名前を呼んできたはずなのに、今日の彩葉はどうしようもなく特別で目を逸らすことすら惜しくなる。
指輪をはめるとき、少しだけ彩葉の指が震えているのが伝わってきた。
そんな緊張さえも、全部が愛おしい。
誓いのキスで唇が触れると、遠くで拍手が起きて祝福の音が波みたいに押し寄せてきた。
戦う世界ではなく、
守るために手を汚さなくていい世界で。
俺は──彩葉の隣に立ち続けたい。
俺が見つけた、宝物。

