律は教室に軽く会釈しながら通り過ぎていく。
横を通るほんの一瞬だけ私へ視線を投げてきた。
何も言わず、ただ静かに微笑んで。
そのまま後ろの席に座る音がする。
ど、どうしよう……
今、私男装してるけど……気づかれてる……?
背中にじわりと視線を感じる。
心臓が変なふうに跳ねて落ち着かない。
そのとき、横の蓮が机をコツ、と指で叩いた。
「知り合い?」
「えっと……元仕事仲間……的な?」
誤魔化した声が震えていないか、不安になる。
HRが終わった瞬間、私は律に捕まる前にと教室を飛び出した。
律とこんな急に再開するなんて思ってもいなかったから、どんな顔して会えばいいのか分からない。
人通りの少ない階段のそばでようやく足を止め、息を整えた。
……落ち着け、私…。
階段脇で息を整えていると、背後から昔の聞き慣れた声が落ちてきた。
「あ、いた」
振り向く前に腕を掴まれて、あっという間に後ろから抱き寄せられる。
頬のすぐ横で、かすかにくすぐったい吐息。
「久しぶり、Iris」
「ちょ、離してっ。というか——ここでコードネームで呼ばないでよ!」
Irisは任務のときに使う私のコードネーム。
つまり……完全に私だと気づいてる。

