そのキス、契約違反です。





「おはよー」

 

そうこうしていると少し眠そうな声と一緒に、ぱたぱたともう一つの足音がする。

振り向けば、(ゆい)がリビングの入口に立っていた。

まだ寝癖の残る髪、少しぼんやりした表情。



「結、おはよう」



そう声をかけると、結はにこっと柔らかく笑って私のところへ歩いてくる。

結の頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。



「っていうか蓮、もう行く時間じゃない?」



ふと思い出してリビングの時計を見ると、針はもうそろそろの位置を指していた。

蓮は一度だけ深く息を吐いて、私の方を見る。



「……すぐ戻る。朝イチの仕事だけ片付けたら、会場直行するから」

「無理しないでね」

「ん。会場まで一緒に行けなくて悪い」

「ばっちり準備して待ってるから安心して!」



そう言うと、蓮は一瞬だけ私の頬に触れた。

指先の温度が伝わって、そっと、触れるだけのキスを落とす。

 

「いってらっしゃい」

 

名残惜しそうに手を離し、蓮は小さく頷いて玄関へ向かう。