そのキス、契約違反です。





この人は最初から気づいていた。

俺がこの立場を望んでいないことも、無理に笑って若頭を演じてきたことも。



神楽組の若頭。
次期組長。


肩書きだけ聞けば、周りは羨む立場だ。


でも──

俺は嫌だった。

正直、ずっと。



でも、嫌だからって投げ出せるほど軽い立場じゃなくて。


俺が背負うことで、守られている人間がいる。

俺が前に立つことで、矢面に立たずに済む人間がいる。


それを知ってしまった以上、「嫌だ」という理由だけで降りられるほど無責任にはなれなかった。


だから歩いてきた、歯を食いしばってでも。


──それでも。


俺は、見つけてしまったんだ。

今までためらっていた理由を全部踏み越えてしまうほど、大事なものを。



「……理由を言え。」



肯定も否定も許されない。

それが逆に、背筋をさらに正した。



「守りたいものができた。命をかけてでも、守りたいものが」



この人相手に、誤魔化しは通用しない。

ここで変に嘘をつけば、一生、彩葉の隣に立つ資格はない。