そのキス、契約違反です。





【side彩葉】





律の病室を出て廊下を曲がる。


蓮の部屋の前で一度立ち止まり、深く深呼吸をして、それからノックをした。


……でも、返事はない。



「……失礼しまーす…」



静かにドアを開けると、白い病室に朝の光が差し込んでいた。

カーテン越しの淡い光の中、ベッドの上で蓮は目を閉じたまま横になっている。


規則正しい呼吸と、点滴の音。

……まだ、寝てる。


そう思って、そっと近づく。

ベッドの脇の椅子に腰掛けて、無意識に小さく息を吐いた。


「……蓮」


呼んでも、反応はない。

ねえ、私、これから、どうしたらいいのかな。



「………さっきね、律に言われたんだ。…普通の人間として生きていく道を考えてもいいんじゃないかって。」



これも、きっと間違いじゃない。


そう思えたからこそ、私はこんなにも混乱してる。



「それも良いなって思ったの。……でも、もし私が普通の女の子だったら…。」



普通ってなんなんだろう。

どちらにしても、私はもう護衛には戻れないし…。



「蓮のそばにいる資格、あるのかな…」



ぽつりと言葉を零して下を向いた、その瞬間。

突然腕を引かれた。