【side律】
病室のドアが静かに閉まった。
足音が遠ざかっていくのを、止めることもできずに聞いている。
彩葉は、ちゃんと前を向いている。
過去に縋らず、恐れからも目を逸らさず、自分の足で立って。
きっともう…俺がそばにいなくても生きていける。
それでも。
……好きで。
どうしようもなく、好きだった。
時間が経てば薄れるとか、一緒にいなければ忘れるとか、そんな都合のいいものじゃなかった。
むしろ逆だ。
一緒に過ごした時間が増えるほど想いは深く、逃げ場をなくしていった。
俺、相当重いって自覚はあるんだけどさ。
命よりも大切なものがあるなんて笑い話みたいな言葉だと思ってたのにさ。
でも本気でそう思ってる自分が、ここにいる。
ただ──彩葉が無事で、幸せなら、それだけでいい。
……なんなんだよ、これ。
自分でも呆れるくらい、馬鹿みたいに重たい感情だ。
とっくに割り切ったつもりだったのに。
相棒として、年上として、線を引こうと思って。
…なのに。
「私と出会ってくれて、ありがとう」
そんなふうに真っ直ぐ言われたら、何年分も溜め込んだ気持ちが、抑えてきた気持ちが、全部浮き上がってくるだろ。
ありがとう、じゃない。
俺だって、そんな簡単な言葉で済むわけがない…。
彩葉はいつもそうだ。
無自覚に、人の想いを掬い上げて。
俺がどれだけ気持ちを抑えようとしても、その一言で、全部「好き」が大きくなってしまう。
……ほんと、罪な人だよ。

