「敬語使ったら解雇って言ったよな。でも解雇は、俺が困る。」
「いや、理不尽…!」
「はい。じゃあ俺の名前呼んで」
何も“じゃあ”ではないんだけど…
満足するまで逃してくれなそうなので、小さく名前を呼ぶ。
「……蓮…?」
「声ちっさ。もう一回」
「蓮!」
朝からなに、この状況は。
そういえば前にもこんなことあったな…
「つか、学校いる時はふつーに喋れんのに2人だとこうなるの何で?」
「あれは演技だから…」
演技だと割り切ればそれなりにスイッチが入る。
今までそうやって仕事してきたから、身体が覚えているというか…。
「プロ意識かよ」
蓮が小さく笑った。
その笑い方が優しくて、ちょっとずるい。
蓮は冷めかけたコーヒーを一口で飲み干すと、軽く肩を回して言った。
「行くぞ。遅刻する」
その背中を慌てて追いかけながら、私は昨日からずっと胸の奥に残ったままのドキドキをごまかすように深呼吸した。

