私は姿勢を正し、無駄のない動作で頭を下げる。
「本日より護衛を担当いたします。桜庭彩葉です。よろしくお願いいたします」
「 神楽創だ。よろしく頼む」
神楽組の現当主。
そして今回、私に“男として息子を護衛しろ”という無茶ぶりをしてきた本人。
その横で窓に背中を預けて座っていた青年が、面倒くさそうに顔を上げた。
「……は? おい親父、話ってこれのことか?」
身長は高く、整った顔立ち。茶髪の前髪の下には妙に鋭い視線。
彼が今回の護衛対象── 神楽蓮。
18歳の私と同い年と聞いている。
「今日から彼には、住み込みでお前の護衛を務めてもらう」
創さんの言葉に、蓮さんはあからさまに眉をひそめた。
「俺に護衛なんて必要ねぇよ」
「前から考えていたが……最近また襲撃が増えただろう。しばらくは護衛をつける。異論は認めん」
蓮さんは「チッ」と舌を鳴らし、苛立ちを隠す気配もない。
荒く息を吐き、髪をかき上げる仕草は“本気で嫌がってる感”が満載だった。
「異論しかねーんだけど。大体いつもいつも──」
「異論は認めん!」
創さんの一喝が部屋の空気を一気に冷やす。
蓮さんは不満を噛み潰したように黙り込んだ。
……なにこれ、親子喧嘩?
気まずいからそういうのは事前に済ませておいて欲しい。
蓮さんはため息を吐き、こちらを見た。
次の瞬間──
さっきまでの不機嫌が嘘みたいに、にこりと笑った。
「……はじめまして。神楽蓮です。……えーっと、彩葉さん、だっけ?」
表面上は笑顔に見える。
けれど、目がまったく笑ってない。
何を考えているかわからない、読めない表情。

