「嫌なら離れるけど」
言われて、思わず肩の力が抜けそうになる。
「べ、別に嫌と言うわけでは…」
しどろもどろになりながら答えると、蓮さんは急に笑顔になって。
「じゃ、敬語もさん付けも禁止な」
あっさりと言い切った。
「え、だからそれは線引きとして──!」
「だってお前に距離置かれてるみたいで、普通にムカつくし」
私が反論すると、眉を少し寄せて不機嫌そうな顔を見せる蓮さん。
な、なにその顔……!
「次、さん付けて呼んだら解雇な」
「えっ」
「俺を騙してた罰」
そう言って、蓮さんは悪い顔をして楽しそうに笑った。
か、解雇は…困る!!
「わかりま──…分かったよ…蓮」
線引きがなくなるのは…自分でも距離感がわからなくなるから、正直不安はある…。
少し震える声で、私は言った。
「んじゃ、部屋戻るから。おやすみ、彩葉」
頭にぽん、と手を置かれ、蓮さん──蓮は満足そうに立ち去っていく。
ドアが閉まる音がしたあと、私はしばらくそのまま座り込んだままだった。
胸がざわついて、手のひらは汗ばんでいる。
頭では分かってる。
護衛は続けられるし、蓮は怒っていなかった。
むしろ、距離が近づいた。
それに、私自身をちゃんと見てくれていた。
ベッドの背もたれに寄りかかり、呼吸を整えようとしても蓮の目や声、距離の感覚が鮮明に残っていて、全然落ち着かない。
──私、いつもこんなに意識してたっけ……?
座ったまま膝を抱え、しばらくそのまま固まってしまった。

