そのキス、契約違反です。




「……それ、今言う……?」

「……今じゃなかったら……いつ言うの」



私は、耐えきれず。

前に蓮がしてくれたみたいに、そっと抱き寄せた。


ぎゅ、と。



「……無事で……よかった……」



耳元で、囁く。


蓮は、一瞬だけ息を詰めて。

それから、力のない腕で私の背中に触れた。

 

……その時。



背後で、かすかに扉の軋む音がした。



抱きしめたまま、全身が強張る。


この空間に私たち以外の気配がある…その事実が、背中を冷たく撫でた。



恐る恐る振り返る。


扉の前に立つ男は、まるでこの光景を待っていたみたいに余裕のある声で言った。



「へえ。君達、別れたのかと思ってたけど、そうじゃないんだ?」



背中に、ひやりとしたものが走る。


修学旅行で蓮に銃を向けた、あの男。



でも、こんな状況でさえ、殺意は感じない。


ただ感情を隠すのが得意なだけかもしれない、けど。