そのキス、契約違反です。




今は混乱の最中。


誰にも気づかれずに動ける、唯一のタイミング。


仮面の奥で息を整えながら、そっと扉に手をかけた。



……扉の向こうは静かだった。
 
薄暗い通路で、湿った空気が肌にまとわりつく。

 
数歩進んだ、その瞬間。



「………っ!」



通路の両脇。

そこに並んでいたのは——牢獄だった。



個室のように整えられた空間。

ベッドもあり、生活できる程度の設備は揃っている。



ただ一つ、違うのは。


——扉が、檻だということ。



……捕まっている。

人が。


胸の奥が、嫌な音を立てて軋んだ。



これは………。



その時。


シュッ、と空気を裂く音が聞こえて

次の瞬間、じわりとした痺れが走った。



「……っ」



反射的に距離を取ろうとしたが、遅かった。

足元から、微細な霧が立ち上る。


……ガス…!?