そのキス、契約違反です。




その直後、悲鳴と怒号が重なり合って空気が一気にざわついた。

客人同士の揉め事にしては、明らかに規模が違う。



碧が、すぐ隣で小さく息を呑むのが分かった。



客たちの足並みが一気に乱れ、ホール全体が騒然とする。

俺は人混みの中で足を止め、無意識に周囲を見渡していた。



……嫌な予感。



──また、爆発音。


今度はもっと近い。

床がわずかに揺れた。



「……っ」



人の波が一気に乱れる。

誰かが押され、誰かが転び、怒鳴り声が飛び交う。


その混乱の隙間で——俺は、違和感に気づいた。



ホール奥。

装飾用の壁だと思っていた場所に、ほんのわずかな隙間。



……扉?

さっきまで、なかった。



「碧…あそこ、さっきまでなかったよな?」



……怪しい。

声を潜めて言うと、碧も眉を寄せる。



「……うん。見覚え、ない」