そのキス、契約違反です。




そう言って律は、私の頭に手を伸ばす。


でも、いつものように撫でることはしなかった。



「…これ、頂戴」



触れて取られたのは、髪につけていた黒い薔薇の髪飾り。

ドレスとセットになっていた小さな装飾。



「いいけど…なんで…?」



問いかける声が、微かに揺れた。


律は答えない。

ただ、少し間を置いてから。



「……前はたしか、ネックレスだったよね。」



一瞬、視線が伏せられる。



「……返す前に、離れ離れになっちゃったけど…今回は絶対、全部終わったら返しにいくから」



その言葉が、胸に深く沈んだ。


——返す、という約束。


無事にまた会う、という前提の言葉。



「……絶対、返してよ」



強がりみたいな言い方になった。

律は、ほんの少しだけ笑った。



「うん」



胸が、締め付けられる。

ここに残ることも、一緒にいることもできない。


それでも。

私は、強く頷いた。



「……行ってくる」



律は、何も言わなかった。

ただ、最後まで私を見送るように。


ドアに手をかけて振り返りたい衝動を、必死で堪える。


……待ってて。

声には出さず、心の中で言う。



——必ず、終わらせるから。



そうして私は、爆発音のした方へと走り出した。