そのキス、契約違反です。





【side彩葉】





「……そんなの」



声が、震えそうになる。

そんなの……置いていけるわけ……。



視界の端に映る律は、私を見ようとしなかった。


壁に背を預けたまま視線を伏せている。



その仕草だけで、分かってしまう。


……もう、限界に近い。



肩の力の入り方、息の浅さ。


どうしよう。


胸の奥が、ぎゅっと縮こまる。



分かってる。

この薬の性質も。

効き目を抑える方法も。



……一つしかない。


それが何なのかを理解しているからこそ、余計に焦りが募る。



ここは船の中、医療班を呼べる状況じゃない。

この手の症状に効く薬だって、都合よく手元にあるはずがない。



しかも。


本来、あの酒を飲むはずだったのは私だった。


迷いもなく、律が代わりに飲んだ。