そのキス、契約違反です。




その姿を見送った瞬間、私は律の腕を掴んだ。



「……大丈夫!?」



声を潜めて問いかける。



「毒、とか……じゃないよね……?」



胸の奥が、ざわざわする。

自分が飲むはずだったものを、律が代わりに飲んだ。

その事実がじわじわと重くのしかかる。


律は、少しだけ呼吸を整えてから私を見た。


「……うん」


苦笑いに近い、曖昧な笑み。



「多分、毒じゃない」

「多分……?」

「これ」



律は、指先で自分の喉元を押さえながら言う。



「予想通りのやつだと思う」



……やっぱり。



「じゃあ……」

「まだ、確信はないけど」



そう言いながら、律は軽く額に手を当てる。



「……ごめん、一旦落ち着くまで任務中断していい?」



私は強く頷いて、律の腕を支える。



「個室行こう」



客室フロアの空き部屋。


ドアが閉まると同時に、船内の喧騒が遮断された。

静かな空間で、律は壁に背を預ける。



「……熱」


ほんの数分だけど、確実に律の様子が変わり始めていた。