そのキス、契約違反です。




……ここで断ったら、怪しまれる。



でも、受け取ったら、危険かもしれない。



私は一瞬だけグラスに視線を落とす。



ほんの、ほんの僅かだけど。


他の客の酒よりわずかに濁りがあって、匂いも普通のアルコールとは違う。

甘ったるい、鼻の奥に残る匂い。



普通の人は気づかないけど、こういう匂いは訓練で何度も嗅いできた。


………こういう場面であるとしたら、催眠系の薬。



確信はないけど、“嫌な予感”としては十分すぎる。



「……すみません。体質的に、お酒があまり……」



私は、慎重に言葉を選んだ。



「ほう?」



男の眉が、ぴくりと動く。



「この船に乗っておいて?…乾杯もせずに情報だけ持ち帰る、なんてのは無粋だろう?」



……まずい。

完全に探られてる。


空気が、じわじわと締め付けてくる。