そのキス、契約違反です。





ホールに戻ると、律がちょうど人混みの端でこちらを探しているのが見えた。


目が合った瞬間、律はほっとしたように眉を下げる。



「無事だった?」

「うん。そっちは?」

「まあまあ。これといって収穫もなし」



さっきまで胸の奥を占領していた蓮の存在を、無理やり意識の奥へ押し込める。


今は、任務。

そう言い聞かせた、その時だった。



「おや、さっきの」



背後からかけられた声に、私は一瞬肩を強張らせた。

そこにいたのは、さっき情報を渡してきたあの男。


にこにことした笑顔。

人当たりの良さを前面に出した態度。



けれど、こういう場所で“愛想がいい”のは、警戒すべきサインだ。



「こんなところでまた会うとはね。縁がある」

「……どうも」



律が一歩前に出て、自然に私を庇う位置に立つ。

男はそれを気にも留めず、片手に持ったグラスを軽く掲げた。



「どうだい、一杯」



グラスの中で、琥珀色の液体が揺れる。

一瞬、空気が張りつめた。