そのキス、契約違反です。





「……と、とにかく」



私は小さく咳払いをして、無理やり気持ちを切り替えた。

今はここで感情に振り回されてる場合じゃない。



「今、危険な任務中だから」



仕事。

そう、今は仕事。


そう自分に言い聞かせながら、視線を二人から外す。



「今は知らない人のふりをして。あと、ここで“彩葉”って呼ばないで。今の私は 彩葉(アイリス)だから」



仮面の奥で、蓮の目がわずかに揺れたのが分かった。

Nocturne(ノクターン)がこの船にいるかもしれないなら。



私たちが“個人的な感情”を見せるのは、弱点になる。



「……全部終わったら」



そう付け足したのは、私の弱さだったかもしれない。



「話す時間、作るから」



約束、なんて言葉は使えなかった。

でも——それでも。


蓮は何か言いたそうに唇を開きかけて、結局何も言わなかった。


代わりに、ぐっと距離を詰めてくる。



「言ったな?」



命令みたいで、それでいて祈るみたいな。

私は一瞬だけ視線を逸らしてから、静かに頷く。



「……嘘はつかないよ」



それ以上言ったら、きっと戻れなくなる。

だから私は踵を返した。


──背中に突き刺さる視線を、感じないふりをして。