そのキス、契約違反です。





──そのとき。


人のざわめきに紛れて、はっきりと落ちてきた声があった。


落ち着いた声。

聞き間違えるはずのない、声色。



「……彩葉!」



その一言で、世界が止まった。



心臓が、ぎゅっと掴まれたみたいに跳ねる。

足先からぞわりと冷たいものが駆け上がってきた。



……今の。


今の、声。



仮面の内側で目を見開いたまま、私は反射的に足を止めてしまう。



嘘でしょ。



ここにいるはずがない。

いるわけがない。



必死に理性が否定するのに、身体の方が先に反応してしまった。

その声を、聞き間違えるわけがない。



「……」



一瞬だけ振り向きそうになって、慌てて唇を噛む。


だめだ、今、振り向いたら。