そのキス、契約違反です。





壁際に立つ黒服。

廊下へと続く扉の前に、さっきはいなかった警備。

立食テーブルの配置も、微妙に変わっている…?



あの部屋で見つけた資料の件、

多分まだ気づかれてはいないけど、“誰かが侵入した”こと自体は主催側も察している。



…今は下手に動かない方がいい。



私はわざとグラスを手に取り、適当な男と軽く言葉を交わしながら「ただの客」を演じ続けた。


愛想笑いも、距離感も、全部計算通り。



……でも。

ふとした瞬間、背中に刺さるような感覚が走った。



見られている。



はっきりとした視線じゃないけど、確実に“誰かがこちらを意識している”ような。


私は表情を変えないままグラスに口をつけるふりをして、視線だけを泳がせた。



……誰?


黒服?


それとも、さっきの男の仲間?



そう思いながらゆっくりと歩く位置を変える。

通路の角を曲がり、少しだけ人の少ないスペースへ。



それでも視線の気配は、消えなかった。


…ついてきている。



仮面の内側で、小さく息を吸う。