お願い……ここまで来ないで……!
──でも、現実は甘くなかった。
湯の揺れに反応して、蓮さんがさらに近づいてきて。
逃げなきゃ、と思ったときにはもう遅かった。
「お前、いるなら返事ぐらい──」
咄嗟に立ち上がった瞬間、腕を掴まれて。
足が、石床で滑った。
「待て──」
「え」
そして…………今に至る。
…ど、どうしよう…!!
女ってことがバレた──その焦りで頭はいっぱいのはずなのに。
それよりもずっと胸の奥で鳴り響いているもののほうが強くて、正直それどころじゃなかった。
湯気に濡れた髪が首筋に貼りついているのがいつもより無自覚に色っぽくて、さっきから心臓がうるさいぐらい鳴ってる。
……い、一旦落ち着こう。
これ以上近くにいたら、本当に心臓がもたない。
私は湯の中でバランスをとりながら、足元を慎重に確かめてゆっくり立ち上がる。
今度こそ滑らないように、呼吸を整えて。
「ご、ごめん!蓮さん!」
そう言い残して、逃げるみたいにくるりと背を向け、早足で更衣室へ駆け込んだ。

