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船内の奥へ進むにつれて、ざわめきは少しずつ遠ざかっていった。
……ここは、おそらく客室フロア。
ホールとは違って人の気配が極端に少ない。
このクルーズ船、どうやら宿泊もできるらしい。
その時。
一番端の部屋で、一瞬だけ黒服の男が出入りするのが見えた。
それも、どこか焦ったような不審な動き。
「……今の、明らかに客じゃない」
そう言うと、律も頷いた。
周囲を確認してから、その端の部屋に近づく。
扉は鍵がかかっているわけでもなく、簡単に開いた。
中は、ごく普通の小さな部屋だった。
ベッドと、簡素なソファー、小さなデスク。
一見すれば、他の客室と何も変わらない。
……気のせいだったのかな。
それとも、鍵の閉め忘れ…?
でも、違和感が拭えなくて棚に目を向けると、装飾用の布がわざとらしく掛けられている。
隠す気があるのかないのか、わからない中途半端さ。
布をどけて資料を一冊取り出した瞬間、確信に変わった。
……これは、明らかに機密資料だ。
出品管理用の書類。
番号で管理されたファイル。
それから、デスクの中にあったノートパソコン。

