【side彩葉】
──どうして、こんなことに…。
気づけば私は、蓮さんの腕の中。
湯の中でしっかりと身体を支えられていて、息ができないほど近い。
これは……まずい。
いろんな意味で、本気でまずい。
──数分前。
私は、ただ普通にお風呂に入っていただけだった。
大浴場の入り口の札はしっかりと使用中の側にした。
それを確認してから入って、湯にゆっくり浸かっていた──はずだったのに。
……ん?ドアの音…?というか、足音……?
足音が聞こえてきた瞬間、全身の血の気が引いた。
やば……え、誰か来た……?なんで!?
私、いま、変装してない…!!
「……………おい。誰かいるのか?」
そして声を聞いた瞬間、背筋が凍りつく。
蓮さん……!?!
よりにもよって、なんで…!!
のぼせるほどお湯に浸かっていたわけでもないのに、一気に心臓が跳ねあがる。
私は慌てて岩場の影に身体を縮めた。
長い髪が湯に浮いたのを感じて、咄嗟に手で押さえる。
そんな私の必死さなんて知らないみたいに、足音はどんどん近づいてきて。
ひっ、こっちくる…!!
お願いだから来ないでっ…………!
呼吸を殺しても、鼓動だけはドクドクうるさい。
じり、じり、と湯気をかき分けながら近づいてくる気配がする。
本気でやばい。
見つかったら終わり。
蓮さんにだけは絶対に、気づかれちゃいけない。
震える指先をぎゅっと握りしめ、私は身を沈めて目をきつく閉じた。

