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クルーズ船の内部に入ると一気に緊張感が増した。
さっきまで甲板にあった海の匂いは消え、代わりに鼻を刺すような香水の甘さと、酒のアルコール、そして金の匂いが漂っている。
蓮と前に行った繁華街のお店とは似ているようでまるで別物だった。
絨毯の敷かれた床は歩くたびに足音を飲み込んでいく。
天井から下がる大きなシャンデリアは、過剰なほどの光を落とし、宝石みたいにきらきらと輝いていた。
——ここにいる全員が、
“客”であると同時に、“獲物”にもなり得る。
そう思った瞬間、背筋がひやりとする。
律と腕を組んだまま、私はゆっくりとホールを進んだ。
入船条件は二人組。
でも、船内での行動まで常に一緒である必要はない。
……けれどこの空気とこの場に慣れていない今、いきなり別行動を取るのは得策じゃない。
怪しまれたとき、誤魔化す材料が減る。
それに…ここでは一瞬の判断ミスが命取りになる。
だからひとまず2人で行動することに。
周囲では、仮面越しの小声があちこちで交錯していた。
「……次は、東側のルートが…」
「純度が落ちた?それは困るな」
「そう言えばあそこの組がまた…」
断片的な単語だけで、十分だった。
ここがただの金持ちの社交場じゃないことは、嫌というほど伝わってくる。
恐らく、常連ばかりなのだろう。
顔なじみ同士で空気も出来上がっている。

