そのキス、契約違反です。




周囲にはすでに集まった客たち全員が仮面を付け、

華やかなドレスやタキシードに身を包んでいる。



どれも一級品。

一見すれば、金と美に溢れた社交場。


でも、その奥にある匂いは同じだった。


——裏社会の人間。


視線の鋭さ、空気の張りつめ方。

ここにいるのは、一般人ではない。



橋の手前で係の男が立ちはだかる。



「月は今夜、どこまで満ちていますか」



これは、入場時の合言葉。

事前に Aegis(イージス)で調査済みだ。


律と一瞬だけ視線を交わし、私は迷わず答えた。



「——欠けているからこそ、価値がある」



一瞬の沈黙。

男は私たちを見て、ゆっくりと口元を歪める。



「……どうぞ。今夜も、良い夜を」



男は横へずれ、道が開いた。


ここは闇の社交場。

優しさも正しさも、通用しない。


私達は、闇の中へ足を踏み出した。