「い、いきなり後ろから声かけないでくださいよっ……!」
色んな意味で、心臓に悪い。
動揺を誤魔化すみたいに勢いで口を開いた。
「お前こそ、危ねぇからこういう時は誰か呼べよ」
私が蓮さんを守る立場なのに、私が守られてどうすんの……。
「……庇ってくれたのは、ありがとうございます。でも蓮さんが怪我したら困ります」
俯いたまま言うと、なぜか蓮さんは私の腰をもう一度きゅっと引き寄せた。
えっ、なんで力強めるのっ……!?
……あんまり密着すると、心臓の音がバレる……!
私は男の子なんだから、こんなことで動揺したら怪しまれてしまう。
「お前細すぎない?ちゃんと食べてんの?」
さらっと言われた一言に、またドキリと心臓が跳ねる。
そんなの、体格が女の子なんだから当たり前じゃん……!
「……そっ、そろそろ離してください!」
思わず顔を上げたら、蓮さんの顔が息が触れそうなぐらい近くにあって、目が合ったまま動けなくなった。
蓮さんはいつもの無表情に見えるのに、目だけがわずかに揺れていて。
ほんの一瞬、私を見たまま固まった。
「……蓮さん?」
小さく名前を呼ぶと、
蓮さんがわずかに息を呑む気配がした。
「……っ、悪い」
ぱっと距離を取るように離れた蓮さんの視線は逸らされたままで、その耳の先がかすかに赤く見える。
な、なにその反応……!
照れたいのはこっちなんですけど……!?
…………というか、え、私が女だって、バレてないよね…?
蓮さんはそれ以上何も言わず、棚にすっと手を伸ばしてボールを取る。
何事もなかったみたいに簡単に。
「ほら。行くぞ」
「……あ、はい!」
蓮さんはそっけない声のまま歩き出す。
私は大きく息を吐いて、胸の鼓動をごまかした。
さっきの抱きしめられた感触がまだ腕に残っていて
落ち着く気配がなくて、この後の授業は何一つ頭に入ってこなかった。

