廊下に出ても、さっきの視線だけがやたら胸に残っていて、
喉の奥に残る緊張をごまかすようにひとつ深呼吸する。
……なんとか誤魔化せた。
そう思いたいけど、胸のあたりがまだ落ち着かない。
周りに誰もいないことを確認し、私はトイレで急いで制服を脱いで体育着へ着替える。
そのまま体育館へと向かうと、ふと後ろから名前を呼ばれた。
「おーい、桜庭。悪い、倉庫から追加でボール取ってきてくれないか?」
振り返ると、体育の先生が鍵を片手にこちらへ向かってくる。
「……あ、はい!大丈夫です!」
鍵を受け取り、体育館近くの倉庫へ向かった。
扉を開けると、中は少しひんやりしていて薄暗い。
ボール……どこだろ。
視線を上に向けると、自分の背よりも高い棚の上に並べられたバスケットボール。
棚の縁に手をかけ、思いきりつま先で立ってみたけど、指先を精一杯伸ばしてもあとほんの数センチ届かない。
「っ……届かないな……」
つま先がぷるぷる震えてきた、その瞬間——
「これ取ればいいの?」
「!?」
真後ろから突然声がして、反射的に体がびくっと跳ねた。
驚いた拍子に手が棚の上を押してしまい、ボールの横に積まれていた軽い箱が音を立てて落ちてくる。
ぎゅっと目を閉じると…
「—っ!」
強い力が、私の腰をがっ、と引き寄せた。
同時に、落ちてきた箱を片手で受け止める衝撃が伝わる。
その勢いのまま私はその人の胸に倒れ込んでいた。
……っ? 痛くない……?
そっと目を開けると、視界には制服の胸元。
「……平気か?」
この声は、蓮さんだ。
蓮さんの腕はまだ私をしっかり抱き寄せたままで、落ち着いた声が頭上から降ってきた。

