そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~




……なんか、蓮さんって人気者だけど、学校のみんなは深くは踏み込もうとはしないように見えた。
私がずっとそばにいるからなのはあるかもしれないけど、それにしても…どこか距離があるというか。

蓮さんが誰かと2人きりで雑談してるとこも見たことがない。

隣で毎日見ているからこそ余計にそれが鮮明に見えていた。


つい、じっと見ていたせいか蓮さんが不思議そうに眉を動かした。



「何、じっとこっち見て」

「あ、ごめん。なんでもないです」

「言えよ。気になるだろ」



そして何故か一歩近づいて来る。

な、なんでわざわざこっちくるの……!!


「その……違ってたら本当にすみませんけど……蓮さんって、なんか…周りから少し距離置かれてません?」

「は?」


言った瞬間、蓮さんの表情がすっと変わった。

…これ、聞いちゃまずいやつだった…?


「悪い意味とかじゃなくて……。蓮さんって完璧すぎて、みんな“踏み込んでいいのか”迷ってる感じというか……」


なるべく淡々とした声を装うけど、内心冷や汗だらだら。

蓮さんはしばらく黙り込んだ。

その沈黙がむしろ答えのように思えて、やっぱ言わなきゃ良かったかも……と後悔が胸をかすめる。


「……で、それがどうした」


怒っているわけではない……?

でも、あまり聞かれたくなさそう。
触れられたくないところを軽く押してしまった、みたいな。


「いや……聞いてきたのそっちですよ……」


蓮さんの表情は相変わらず読みづらくて、わからない。


「別に、友達が欲しいわけでもねぇし」


言いながら視線を逸らした横顔は、どこか冷たそうで、でもどこか寂しそうにも見えた。


「……“いない”のは、否定しないんですね」


ぽろっと出てしまった言葉に自分でもハッとする。


「……お前な」


睨んでいるわけじゃない。

戸惑いと、少しの呆れが混じったようなまなざし。

耐えきれず、私は半ば逃げるように体育着の袋を持ち直した。


「あー……じゃあ俺、トイレで着替えてくるから。先行ってて下さい」


逃げるように教室を出たけど、蓮さんは追ってこなかった。