そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~



「おいお前ら、仲良しなのは良いが授業中だぞ!」

「す、すみません!」


先生に注意されれば、周囲がくすっと笑って。


「蓮さんのせいですよ!」


私がムッとして小声で睨みつければ、蓮さんもくすくす笑う。


何がそんなに楽しいんですか……!?

……でも、こういう蓮さんは、少しだけ年相応に見える。

それに、言っている通り本当に勉強は出来て、成績は学年でも上位。
人目を惹く外見だけじゃなくて頭も切れる。

…喧嘩も強くて頭も良くて、とにかく完璧だ。



そして極めつけは、今朝のこと。



部屋を出ると、ちょうど蓮さんが廊下の角から現れて。


「……おはようございます」

「おはよ。……おい、待て」


すれ違いざまに腕を掴まれた。

蓮さんの指先が私の髪に触れて、ひょい、と持ち上げられた先には、跳ね上がった寝癖。


「そのまま外行く気?ダせぇんだけど」

「へ? うそ……!」


慌てて押さえようとした手を、蓮さんに制されて。


「動くな。……じっとしてろ」


蓮さんは、私の髪をそっと撫でるように整える。


ちょ、近い…!

というか、ウィッグ触られるのはほんとに危険なんだけど!?

でも、ここで変に避けたらもっと怪しまれる気がして、私は祈るような気持ちで固まった。


「……ん。これでいい」


髪を整え終えて蓮さんの手が離れると、ウィッグがバレなくてよかった……と内心ほっとする。


「……最近の蓮さん、なんか優しいですね」

「は?元からだろ」

「え、あれで優しいと思ってたんですか……?」



最近はずっとこんな感じで、蓮さんが接してくるから、距離感が分からなくなっていた。


…っていうか私、なんで蓮さんの行動や言動にこんなに振り回されてるの。

私は護衛で、それ以上でも以下でもないのに。

余計な感情は全部仕事の邪魔。
だからこれ以上距離なんか縮めちゃいけない。

………それに私は、男装して蓮さんを騙しているんだから。