「……律」
朝食にも来ていなかったし、どこか引っかかっていた違和感が確信に変わる。
名前を呼ぶと、律の肩がほんのわずかに揺れた。
それでも振り返った顔はいつも通りで。
何事もなかったみたいな、柔らかい笑顔で私を見た。
「おはよ。」
そう言って振り返った律の指先に、細い煙草が挟まれていて。
朝の澄んだ空気に、不似合いな灰色の煙がゆらゆらと溶けていた。
律は、基本的に煙草を吸わない。
少なくとも——“何もなかった日”には。
私はAegisにいた頃、ずっと律の隣にいた。
だから知っている。
律が煙草を吸うのは、決まって“後味の悪い仕事”のあとだ。
……久しぶりに見た、その光景。
「……それ」
私が指さすと、視線を辿って、律は一瞬だけ目を伏せた。
「これ?…久しぶりに、吸いたくなっただけ」
嘘。
——あまりにも、分かりやすい嘘。
「ふーん」
私は、わざと曖昧に相槌を打って、一歩距離を詰める。
煙の匂いが、微かに鼻を刺した。
「誰かに見られたらまずいんじゃない?」
「たしかにねー」
律は今、高校生のふりをしてここにいる。
先生とか、生徒とか、誰かに見つかったら面倒なことになる。

