そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~







──蓮さんの護衛になってから2週間。


蓮さんは相変わらず教室では完璧な微笑みを崩さないし、私の前では素を出しているはずなのに一切ボロを出さない。

その徹底ぶりはもはや圧巻で、演じることが仕事の一部の私から見ても感心してしまうほどだった。


それでも、ほんの数日しか経っていないのに、蓮さんとの距離は“初日とは別物”になっていて。

初日はあれだけ『いらない』『離れて歩け』なんて言われたのに、気づけば隣にいることが当たり前みたいに馴染んでしまった。



…少しだけど、蓮さんが私に“気を許してくれている”気さえする。

私の隣の席に腰を下ろした瞬間だけ、ほんの少しだけ気を張り続けていた空気が緩んでいることに気づいてしまったから。


気のせいかもしれない。
でも、そう感じてしまう瞬間が確かに増えた。



たとえば──



学校帰り、校門の人混みを抜けようとしたとき。


「おい」


呼ばれた直後、リュックを掴まれて強引に引き寄せられた。

前から歩いてきた人にぶつかる寸前、そのまま私の体がすとんと蓮さんの傍に収まる。


「お前、歩くの下手?」

「自分で避けれます……!」

「さっき普通にぶつかってただろ。……ほら、置いてくぞ」


呆れたようにぼそっと言いながら歩き出す蓮さん。
それはいつも通りだけど、いつのまにか歩幅が私にぴったり合っていた。

初日はあれほど「ついてくんな」って言ってたのに。
仲良し演技だと割り切ればそれまでだけど……少しくらい、護衛として認めてくれているのかなって、期待してしまう。


でも、ほんの少し気を抜きすぎていたのかもしれない。

本来の私は人とぶつかるなんて滅多にないのに。
ここ最近は事件もなく、平和すぎる学園生活に馴染みすぎて…完全に気が緩んでいた。

私は護衛なんだから、もっと気を張っていなくちゃいけないのに。




──授業中なんかも……蓮さんが何気なく視線を寄越して小声で話しかけてくる瞬間がある。

ふとした拍子に、隣から私の書いたノートを覗き込んできたり。



「……お前、意外と字綺麗なんだな」

「意外って何ですか」

「褒めただけだろ」

「授業中なんですから前向いてくださいってば……」

「この範囲全部分かってるから暇なんだよ」


こうやって、時々ちょっかいをかけてくる。
今は別に幼なじみ演技は必要ないのに。